#4.
臨床推論とは 「臨床推論」と一般に呼ばれる診断のプロセスは,「Dual processes model」といい,ふたつの要素から成ると説明される
直感的思考(Intuitive process;System 1)
分析的思考(Analytical process;System 2)
#5.
System1(直感的思考) vs System2(分析的思考)Ref:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02965_02
#6.
System1/直感的思考 経験に基づく直感
直線的な思考過程
Snap Diagnosis
典型的な臨床症状・所見から診断をズバリ当てる「パターン認識」
ヒューリスティクスと似た手法で迅速な診断を可能にする「クリニカルパール」
時間がかからない
初学者には難しい
#7.
System2/分析的思考 論理的・体系的なアプローチ
フレームワーク(VINDICATEなど)
アルゴリズム,Bayesの定理
ネモニクス(mnemonics:AIUEOTIPSなど)
体系的なため鑑別診断の漏れはすくない
時間がかかる、効率はよくない
鑑別をたくさんあげるのは初学者にも可能だがうまく選定するには豊富な知識が必要
#8.
生来健康な45歳男性
突然発症の左側腹部痛
System1:尿管結石
System2/解剖学的アプローチ
→心筋梗塞
→左肺炎,肺塞栓
→尿管結石,腎梗塞
→胃潰瘍,AGML,上部消化管穿孔
→急性膵炎
→憩室炎,虚血性腸炎
→大動脈解離
→帯状疱疹
#9.
おそらく現実的には… シンプルそうな症例→System1
複雑そうな症例→System2
というように無意識に使い分けている!?
効率と網羅性はトレードオフになる
#10.
System1 vs System2 Funtional MRIによると(Cognition 2003;87: B11–22.)
→System1:非分析的思考→腹側内側前頭野
→System2:分析的思考→右下前頭野
と脳みそを使っている部分も違うようだ
#11.
今日の目的「意識的」にSystem1とSystem2を使い分けてみよう
#12.
①診断プロセスに関して 「Dual processes model」といい,ふたつの要素から成ると説明される
2つのプロセスには主に直感的思考(system1) と分析的思考(System2)
時間/効率と網羅性のトレードオフ
意識的に上記を使い分けるべし
#13.
②ER医の診断プロセス
#14.
ER医の診断プロセス Q1.鑑別診断を考えるのはどのタイミング?
Q2.鑑別診断は何個あげているでしょうか?
Q3.鑑別診断を絞るのはどのタイミング?
Q4.鑑別診断を除外するのはどのタイミング?
#15.
ER医の診断プロセス(Ann Emerg Med;2014;64:575-585) 鑑別診断は平均5個(4-8個)
診察前に25%
診察して5分で75%近くの鑑別診断をあげている
#16.
ER医の診断プロセス(Ann Emerg Med;2014;64:575-585) 救急医の鑑別は平均5つ(主に4-8)
患者に合って5min以内に77%をあげている
鑑別は過去の経験や周囲の情報による
上記のタスクは意図的な努力なしに行われて
System1で行っている
重篤な疾患の除外は慎重にやっていた。検査結果が出るまでは行っていなかった
#17.
System1のススメ □メリット
時間がかからない
効率よく行える
決定疲労(decision fatigue)を起こしにくい
限られたワーキングメモリーで戦える
□デメリット
間違えやすい
#18.
ワーキングメモリ 認知心理学において、情報を一時的に保ちながら操作するための構造や過程を指す構成概念
成人のワーキングメモリは3-5個とも言われている(Behav Brain Sci, 24 : 87-114, 2001)
同時に考える鑑別は3-5ぐらいが妥当かも?
#19.
System1の欠点=間違えやすい?
#20.
System1=間違えやすい? System1<System2 ?
System1はどんな時に間違えやすいか
#21.
System 1 vs System2 診断精度に関して
互角
と言われている
(Adv Health Sci Educ 2009;14: 37–49. Adv Health Sci Educ Theory Pract 2014;19:457–64)
#22.
System1 vs System2(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30) System1のミスは認知バイアスによる記憶の連想性の結果
System1の診断エラーが認知バイアスなら時間をかけてSystem2をすれば改善するはず...でもそうではなかった。
早期閉鎖と確証バイアスはData収集と合成の過程で生じるのでSystem2でもおきる
System2はWorkingメモリの用量が限られていることに起因する可能性がある
専門知識が増えるとエラーの可能性が減少する
#23.
System1 vs System2(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30) 時間をかければより診断精度があがるか?
→診断に掛ける時間が短いほど診断精度が高い(Acad Med. 2012;87:785–791.)
→診断に時間をかけるほど誤診がふえる(J Gen Intern Med. 2015;30:1270–1274)
→時間をかければよい,System2でやれば診断エラーがおきない...というわけではない
※ただし初心者では時間制限で診断エラーが増える(Acad Med. 2016;91:710–716)
#24.
System1 vs System2(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30) System1の診断エラーはヒューリスティックから生じ,System2の介入で修正される(Cogn Sci. 2003;7:454–459.)
初期の診断仮説を分析することによりパフォーマンスを改善できる(Can Med Educ J. 2013;4:e7–e15.)
複雑症例では構造化した振り返りが診断精度をたかめた(Med Educ 2008;42:468–75 Psychol Res 2010;74:586–92..)
#25.
Pivot and clusterという戦略も(Int J Gen Med. 2012;5:917-21.)
#26.
ER医の診断プロセス 診察前に25%(鑑別を1-2個)
診察して5分で75%(鑑別を3-6個)
鑑別診断の数は4-8個
主にSystem1で行っている
疾患除外は丁寧に検査結果がでるまでは棄却しない
#27.
System1 vs System2 まとめ System1と2のどっちが診断精度がいいかは不明
System1の欠点を振り返りやSystem2が埋めてくれる
救急という設定では時間,ワーキングメモリ,決定疲労などを考えるとSystem1が有用
System1をベースにSystem2を症例により組み込むのが妥当そう。Pivot and Clusterという戦略もオススメ。
#28.
診断エラーを回避するには!?
#29.
診断エラーはどれくらいある? Q1. 1%
Q2. 3%
Q3.10%
Q4.30%
#30.
診断エラーはCommon!! 診断エラーは10-15%で生じている(Acad Emerg Med 2002;9:740–50.BMJ Qual Saf 2013;22:i21–ii27.)
#31.
診断エラー100例の内訳(Arch Intern Med. 2005;165:1493–1499 ) 知識や技術の不足:11%(知識が4%,読影などの技術が7%)
状況要因:19% 認知心理的要因 28%
状況要因+認知心理的要因の両方:46%
医学的な側面は1割!?
#32.
診断エラーの要因 状況要因:ストレス,疲れ,時間制限,陰性感情/陽性感情,医師の状態,設備,人手
情報収集:多すぎるData,他者の得た病歴や診断への依存,情報提示のされ方による幻惑
情報統合:代表性ヒューリスティック,早期閉鎖,アンカリング,確証バイアス,過信バイアス
#33.
診断エラーは医学的知識の面だけではない?認知エラーに注目する方向に移行している
#34.
System1で多いミス 早期閉鎖(Arch Intern Med. 2005;165:1493–1499)
利用可能バイアス(最近見た症例の影響)(JAMA 2010;304:1198–203.)
Anchoring:初期診断に固執
Confirmation:診断を指示する根拠を探し,反証には目をつぶる
Overconfidence:仮説診断を過剰に診断する
Representative ness:仮説診断の時点で典型像にあてはめて考える
#35.
早期閉鎖の例 60歳男性 急性発症の左側腹部〜腰部の痛みでER受診、HR 120 BP 164/92 CVA叩打痛陽性、尿潜血陽性
診断は尿管結石でVitalである頻脈は疼痛のせいだろうとおもってUSするも水腎症はない。水腎症は感度高くないのでCT検査を行うも結石はない…。
#36.
早期閉鎖の例 尿管結石決め打ちで診療していたため、頻脈が実は心房細動で不整だったのに気づかなかった…
造影CT撮像して腎梗塞の診断となった
尿管結石にしては高齢だったのもBiasにとらわれて軽視していた
#37.
早期閉鎖の例 70歳男性 COPDが既往にあり呼吸苦で受診
COPD急性増悪の診断でSABA吸入とmPSLで治療を行うも改善が乏しく入院となった
#38.
早期閉鎖の例 70歳男性 COPDが既往にあり呼吸苦で受診
COPD急性増悪の診断でSABA吸入とmPSLで治療を行うも改善が乏しく入院となった
呼吸苦の増悪はあったが喀痰や咳嗽の増悪はなく先行感染症状もなかった。呼気Wheezeも乏しく、典型的なCOPD急性増悪にあわないところから造影CT施行し肺塞栓の診断となった。
#39.
利用可能バイアス ケース1:インフルエンザ
ケース2:感冒
ケース3:インフルエンザ
ケース4:感冒
ケース5:感冒
ケース6:微熱,頭痛,倦怠感が家族内で発生
#40.
利用可能バイアス ケース1:インフルエンザ
ケース2:感冒
ケース3:インフルエンザ
ケース4:感冒
ケース5:感冒
ケース6:微熱,頭痛,倦怠感が家族内で発生
診断:CO中毒
#41.
利用可能バイアス ケース1:インフルエンザ
ケース2:感冒
ケース3:インフルエンザ
ケース4:肺炎
ケース5:インフルエンザ
ケース6:発熱,咳嗽,倦怠感,軽度の呼吸苦,Xrで肺炎像なし
#42.
利用可能バイアス ケース1:インフルエンザ
ケース2:感冒
ケース3:インフルエンザ
ケース4:肺炎
ケース5:インフルエンザ
ケース6:発熱,咳嗽,倦怠感,軽度の呼吸苦,Xrで肺炎像なし
診断:ウィルス性心筋炎
#43.
診断エラーを減らすには(BMJ Qual Saf. 2016 Oct;25(10):808-20) educational interventions/教育による介入
checklists/チェックリスト
cognitive forcing strategies/認知強化戦略
guided reflection/振り返りの導入
instructions at test
の5個はどれも有用だった 。
特にguided reflection/振り返りが最も有用だった。 認知強化戦略は精度と自信を改善した。
#44.
診断エラーを減らすには(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30) □ヒューリスティック戦略
・バイアスを教えるだけでは診断エラーは減少しないという報告も有る
・バイアスチェックリスト vs ケースベースのチェックリストの研究(Med Teach.2013;35:e1218–e1229.)ではケースベースのチェックリストのほうが有用だった
#45.
診断エラーを減らすには(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30) □知識ベースの戦略
・意図的な振り返り
・診断が正しくないことを認識するには矛盾する証拠を特定する
・System2に基づく分析だが誤った認知バイアスの特定ではなく適切な知識をえることに重点を置いている
・振り返りは診断精度をあげる(Acad Med. 2010;85:1125–1129.Can Med Educ J. 2013;4:e7–e15.)
・振り返りは複雑なケースほど有用(Med Educ. 2004;38:1302–1308.)
#46.
診断エラーを減らすには(BMJ Qual Saf.2012;21:535–557) ①知識や経験に対する介入。シミュレーションベースのトレーニングなど。単一の疾患に焦点をあてフィードバックや教育ができる
②臨床推論や意思決定スキルへの介入。振り返りや能動的なメタ認知レビュー
③認知的に助けを使う。電子カルテ、専門家へのアクセス...
#47.
診断エラーを減らすには(BMJ Qual Saf. 2016 Oct;25(10):808-20) メタ認知スキルを推奨し,2つの推論モードを賢く切り替えるのが現実的かもしれない
2つのアプローチが推奨されている
①教育戦略:推論スタイルの認識,教育カリキュラム,シミュレーション..
②環境の戦略:チェックリスト,認知強化戦略,診断タイムアウト...
#48.
診断エラーを減らすには バイアスの勉強も大事だが…
知識や経験に対する介入
振り返りが重要/何故間違えたのか
→他者を使った振り返り
→自己での振り返り
#49.
医学的知識に関して 原因の1割未満かもしれないが…特に医師経験数が浅いときは医学知識の勉強も重要
illness script
を鍛える
#50.
BPPVのillness script 頭位変換で増悪するめまい
安静時にはめまい症状はなく、頭位変換で発症し、持続時間は1分以内。
#51.
虫垂炎のillness script 心窩部で発症し右下に移動する腹痛
非典型的なケースが5割。腹痛の前に嘔気を発症していたり、右下の下腹部痛がなく、腹膜刺激がなければ否定的。反跳痛やWBCやCRPは否定の根拠にならない。
#52.
臨床推論改善のために(Curr Probl Pediatr Adolesc Health Care. 2013 Oct;43(9):248-57) 知識の量より,知識をどのように問題解決に役立つか
illness scriptは知識を整理し保存し到達するための重要な認知構造
臨床経験の追加で知識をillness scriptに移すことができる
illness scriptの形式で知識を保存することで様々な臨床状況との比較ができる
#53.
臨床推論改善のために(Curr Probl Pediatr Adolesc Health Care. 2013 Oct;43(9):248-57) □Scaffolding/足場づくり
・より有能な他者が学習主体の行為を方向づける過程
・自分が達成できないはずの内容のものを習得可能なレベルに下ろしてもらう
・scaffolding/足場づくりのポイントは2つ
1.質問を通じて生徒自身で知識を再編成する
2.臨床プレゼンテーションの理解を明確にするための即時のリアルタイムフィードバック
#54.
臨床推論改善のために(Curr Probl Pediatr Adolesc Health Care. 2013 Oct;43(9):248-57) 病歴聴取ができていないのであれば病歴聴取の際に有用なメモニックを教える(SAMPLE,OPQRST…)
RIMEで学習者を評価する
SNAPPSなどの方法で指導する
「Semantic Qualifiers」を使う
#55.
振り返りの種類(Curr Probl Pediatr Adolesc Health Care. 2013 Oct;43(9):248-57) knowing-in-action:行為の中の知/無意識的に知っている行為 や認知や判断
reflection-in-action:行為の中の省察/行動しながら行っていることを思考する。System2気味、可用性バイアスに対抗できる。
reflection-on-action:行為の後やその最中に,実践やその思考について振り返ること
#56.
診断エラーを減らすには バイアスの勉強をするというよりは…
知識や経験に対する介入
振り返りが重要/何故間違えたのか
→他者を使った振り返り
→自己での振り返り
意図的な振り返りを行う
#57.
よくある5つのpit-fall(BMJ.2005;330:781–783.) Pitfall 1: the representativeness heuristic/代表性ヒューリスティック
特定のカテゴリーに典型的なのがあると過大に評価しやすい
ACSの情報にうつ症状,脳卒中の情報に飲酒をくわえるだけでひっぱられる
Pitfall 2: the availability heuristic/利用可能ヒューリスティック
Pitfall 3: overconfidence/自信過剰
ほぼすべての医師が思っているより多くの間違いをおこしている
疼痛管理の自己評価でもそれは認められた(Cancer 1995;76: 2375-82.)
知識の限界を認識し、知識を最新に保つようにすることが重要
同僚の意見を求めたり、さらに情報を収集するようになる
#58.
よくある5つのpit-fall(BMJ.2005;330:781–783.) Pitfall 4:confirmatory bias/確認バイアス
医師は確認バイアスから逃れられない
早期閉鎖につながる可能性もある
既存の診断と矛盾する可能性のある情報に常に注意をはらい慎重に検討する
Pitfall 5: illusory correlation/錯誤相関:相関がないデータに相関があると思い込んでしまう現象
錯誤相関をすると間違った信念を強化し,間違った信念が継続する
#59.
Rules for good decision making(BMJ.2005;330:781–783.) 有病率に注意する
データーが本当に関連性が有るか検討する
初期診断が間違っているか別の診断関節を考える
今の診断に反証を考える
思っている以上に間違いをしていることを忘れない
#60.
診断エラー回避のためには(Med Teach 2008;30:496-500) 1.バイアスの影響を知る
2.「診断タイムアウト」を利用する
3.「最悪の医療シナリオ」の想定を実行する
4.系統的アプローチを利用する
5.自分がそう診断した理由を振り返る
6.臨床診察の価値を知る
7.ベイズの定理を学ぶ
8.陰性感情の影響を知る
9.暫定的な診断に一致しない臨床データを探す
10.珍しい病気を受け入れる
11.時間をかけて思考する
12.自分のミスを認める
#61.
メタ認知の具体的な作業(Ann Emerg Med. 2003 Jan;41(1):110-20) •ワーキングメモリが限られていることを認識する
•目の前の問題点から一歩引き、広い視点を保つ
•自分の決断を振り返り、新しい情報や他者の視点を取り入れる
•個人的に陥りやすいバイアスを知る
•自分の感情を言語化し、受け入れる
•状況によっては、要求水準を下げる、他者に助けを求める、アウトソースする
#62.
メタ認知のための作業/HALT H:Hungry/空腹
A:Angry/起こっている
L:Late/遅刻する
T:Tired/疲れている
上記の状態にあると…間違えやすいかも?
ERの文献につまみ食い推奨の記述も…!?
#63.
陰性感情のコントロール(Am Fam Physician. 2013 Mar 15;87(6):419-25.) 陰性感情に気づく
イライラしたときほど話を聴く
ちょっとしたことにも同意する
言語化する
同僚とシェアする
#64.
バイアスの影響を受けやすい状況(BMJ Qual Saf. 2013 Oct;22 Suppl 2:ii58-ii64) 引き継ぎ患者
他者の診断を信じすぎる
第一印象に頼る
一つの診断で安心する
患者に対する感情が生じている
診断時に邪魔が入った
疲れている、眠れていない
”キャパ超え”している
診断を決めつける
除外診断をきちんと行なっていない
#65.
診断エラーの回避のためには 振り返りを行う
→自分でやる、他の人とやる
→「意図的」な振り返り,分析を行う
→医学的知識/illness scriptを磨く
自分の限界を知る
自分が陥りやすいBiasを知る
当日の環境・状況に対応する
→自分のコンディションのメタ認知/HALT
→陰性感情のコントロール